「トラックドライバーのキャリアパス」について書きましたが、今回はその後編です。
前回は、運送会社が人不足に悩む原因として、運送会社自身の構造的な問題(欠陥といっても良いでしょう)を指摘しました。しかし、欠陥を指摘するだけだと、「やっぱり運送会社は人が集められないのね...」ということになってしまいます。
今回は、運送会社が人不足を解消するための方法のひとつとして、逆転の発想をご提案したいと思います。
今回のテーマは、国土交通省が開催した「第三回 物流問題調査検討会」のレポートを基にしています。
前編では、同レポート中の「複線的なキャリア形成」という表現をピックアップし、運送会社の構造的な問題について取り上げました。構造上、多くの管理職(ライン)を必要としない運送会社では、ドライバーでサラリーマンとしてのキャリアを終えることが多く、出世は見込みにくい。それを打破するためには、運送業務単体ではなく、倉庫業、3PLなど業務を多角化する必要がある。
前編で僕が書いた主旨はこんなところです。
この考え方は基本的には間違っていないと思っています。
しかし、今の運送業界の現実を鑑みると、この考え方には致命的な問題があります。
全日本トラック協会が毎年発行している「日本のトラック輸送産業/現状と課題2013」の6ページを読むと、その問題は明確です。
運送会社の57%が車両10台以下。
49%が従業員10名以下。
これが日本の運送会社の現状です。
そして、車両が10台以下、もしくは従業員が10名以下の、言ってしまえば経営基盤の脆弱な会社に、運送業以外の別ビジネスをやりなさいと言っても、それはほぼ不可能です。そして日本の運送会社の半分が、そのような状況にあるという現実があります。
じゃあ結局、日本の運送会社、もっと言えば運送業界は、慢性的な人不足に甘んじなければならないのか。
そんなことはないですよ!
今回のBlogのテーマは、小さな運送会社でも実現可能な、人不足解消方法について書きたいと思います。
上記は、先の「物流問題調査検討会」のレポートから、現在の運送業界が抱える運送業界の人不足問題における問題点をピックアップしたものです。
- 業界イメージが悪い。
トラック業界に対する3Kのイメージが強い。 - キャリアパスの欠如、不足
ドライバーのキャリアアップイメージが描きにくい。 - ドライバーの高年齢化
運送業界で働く42.3%が、「40歳~54歳」。全産業の平均である33.5%と比べ、著しく年齢が高い。 - 女性ドライバーの活用不足
これまで進んでいない女性トラックドライバーの活用促進には、経営者の意識改革などが必要。
多少の議論はあるかもしれませんが、基本、運送業界の人不足問題の原因はこんなところでしょう。
ただ、これに対して、例えばこんな逆転の発想をしてはいかがでしょうか?
※「女性ドライバーの活用不足」については、問題というよりも人不足に対する解決策なので、ここでは議論から外して進めています。
「業界全体のイメージが悪い」と言っても、それでもトラックドライバーという職業に興味を持つ人はいるわけです。でも、業界イメージが悪いから他業界に行ってしまうというのが課題。
だとすれば、「運送業界のイメージは悪いかもしれないけど、うちの会社は、こんなに働きやすい、アンチ3Kの運送会社ですよ!!」ということをアピールすれば、他の運送会社との差別化につながるということになります。
「キャリアパスがない、もしくは不足している」というのであれば、キャリアパスを求めない人を集めれば良い。そもそも、世の中のすべての人が出世したいと考えることが間違い。出世する、つまりライン職、管理職になるということは、人事マネージメントやら成績管理などを行うということです。
そんなことはしたくない、僕は(私は)それなりに働いて、それなりの給料を貰えればそれでいい。
仕事よりもプライベートに充実を求める、もしくは性格上どうしても管理職に向かない。そういった人たちの存在を認めてあげる会社があったっていいと思います。
「ドライバーの高年齢化」を問題にする理由は様々あります。
理由のひとつは、「次世代の働き手が育たないから」。でも、そもそもその次世代の人が集まらないことが課題なんだし、これから高齢化社会が加速していく日本において、若い人を集めるというのはより難しくなっていきます。
だったら、50代、60代といった高年齢の方々を安定的に採用する方法を考えたほうが良い。
これは需要と供給の問題なわけですから、ないものねだりをするよりも、手に入れられるもの(人)を活躍させる方法を考えたほうがよほど進歩的であり現実的です。
ふたつほど、例を挙げましょう。
僕の知るある運送会社は、20代の若手トラックドライバーの採用に成果を上げています。
理由は簡単。
休みを取りやすくしていて、かつ彼らのプライベートを尊重しているから。
その運送会社は基本休みは日曜日のみですが、平日休みや有給取得といった休日に対する希望に柔軟に対応することを旨としています。もちろん、前もっての申請は必須ですが、一般的なサラリーマンよりも、むしろ休みの取り方はフレキシブルと言ってよいでしょう。
そして、定時であがれるように配車を組んでいます。当然、その結果としてその会社の労務管理は極めてキレイで、話題のブラック企業とは相反する働き方を実現しています。
その会社で働く若者の多くは、実は別に夢を抱えています。
お笑い芸人を目指していたり、ミュージシャン希望もいます。彼らは夢をかなえるための現実的な糧としてトラックドライバーをしており、その会社の社長も、そういった彼らに理解を示しています。
サラリーマンとしての向上を目指していないから、キャリアパスは求めません。
でも、彼らはまじめですよ。
夢を持つ人は、得てして努力することを厭わないし、与えられた仕事に対しては真摯です。
まじめに働き、生活するためのお給料を稼がないと、夢をかなえること、夢をかなえるための活動をすることもできないわけですから。
別の例です。
僕の友人は、極めて優秀なWeb系のシステムエンジニアです。
しかし、彼は50歳。転職しようとするも、年齢故に転職は難航しました。
結局彼は、タクシードライバーになりました。
タクシー業界は全般的に、高年齢層、未経験者に対して寛容です。教育制度も充実しています。また、労働条件の改善は、運送会社よりも進んでいます。
構造的に、キャリアパスが不足していて「複線的なキャリア形成の実現」ができていないことは運送会社もタクシー会社も同様です。しかし、50代といった年齢層の高い方々の中には、もはや転職先で管理職につくことを厭う人も多くいます。
管理職に疲れ転職し、それ故に新天地においても管理職になることは求めない。
でも、自分よりも年齢の低い上司の下で働くのは嫌。
そういった人にとって、タクシードライバー、トラックドライバーといった、就業時間の大半を1人で過ごせる職業は、実は魅力的な条件を備えていることに、運送業界は気づき、かつもっと積極的にアピールしてもよいと思います。
運送業界全体で、人不足を解消しようというのはとても難しいことです。
でも、貴方の会社一社のことならば、人不足を解消することは決して無理ではないはずですし、実際に実現している会社もあります。
要は、見せ方です。
例えば、IT業界は若者を問わず人気のある業界ですが、その実情、労働環境は、物流業界よりもよほど過酷だし、劣悪です。
徹夜させられるトラックドライバーは、今の法令上ではほとんど考えられません。
しかし、徹夜させられるSEは、ごまんといるでしょう。
30歳、35歳といった比較的若い年齢の社員に、事実上の肩叩きをするIT会社は少なからず存在します。なぜなら、現代のIT技術において、最新のプログラム技術を、30を超えたプログラマーに習得させるよりも、学校で最新技術を学んだばかりの新人を獲得するほうが、効率がよく、コストも安く済むからです。
でも、30代のドライバーを、本人に問題もないのに辞めさせようとする運送会社はまずありえませんよね。
「弊社は平均年齢30歳の若く活力に満ちた会社です」というアピールをする、IT、もしくはベンチャー企業は未だ少なからず存在します。でも、その会社が設立してから10年を超えているとしたら、それは人を意図的に辞めさせているということです。
これが「見せ方」のマジックです。ブランディングと言われる場合もあります。
現代は、ホームページ、FacebookなどのSNSの普及と一般化により、「見せ方」をプロデュースすることが容易にできるようになりました。もちろん、うわべだけでなく、中身も伴っていなければならないのですが。
中身、つまりはコンテンツをしっかりと整備し、それをアピールすることができれば、人不足のみならず多くの問題は必ず解決します。
今回テーマにした、「逆転の発想」は、その典型的な例だと思います。
運送会社の人不足は、深刻な問題です。
しかし、解決の方法は必ずありますし、その方法は、今回書いた方法だけではありません。
あきらめず、ともにこの問題に立ち向かっていきましょう!
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