楽天物流の吸収合併は「敗退」なのか? ②

前回のBlogに引き続き、楽天物流が親会社である楽天に吸収合併されることになった、その背景を考えたいと思います。

 

楽天物流 センター一覧

※各センターの情報は、楽天物流Webサイトから取得

http://logistics.rakuten.co.jp/location/index.html#kanto

日経コンピューターの記事によれば、楽天物流の倉庫を利用する直接の顧客となる、「楽天スーパーロジ」の契約社数は、2014年2月時点で400社以上。

ここでは契約社数を420店舗、各物流センターでの共有スペースを20%と仮定すると、1店舗あたりの坪数は、以下のようになります。

 

1店舗あたりの坪数(柏を含む):115.7坪

1店舗あたりの坪数(柏を除く):88.8坪

 

一方、2月に契約解除された柏センターの坪当たり賃料は、(根拠は内緒にしますが)おそらく\3,700前後。もちろん、柏センターと市川、加西センターの賃料がまったく同じでないにせよ、ここでは同程度の賃料であると仮定して推論を続けます。

楽天物流が良心的(笑)な賃料設定をしてたとして、@\3,800/坪で倉庫スペースを店舗に賃貸していたとすると、1店舗あたりの年間倉庫コストは、以下のようになります。

 

1店舗あたりの年間倉庫コスト(柏を含む):\5,277,360

1店舗あたりの年間倉庫コスト(柏を除く):\4,047,325

 

さらに。

2014年2月14日に発表された楽天2013年通期IR資料によれば、楽天モールの出店店舗数は、2014年2月現在で、約4万2千店舗(70ページ参照)。1店舗あたりの年間売上は、平均4000万円超。

 

売上4000万円で、倉庫賃料が500万円超というのは明らかにコストがかかりすぎです。

柏センターを閉鎖しても、倉庫賃料は400万円以上。売上の10%前後というのも無理があるでしょう。

 

日経コンピューターの記事「物流代行の楽天スーパーロジは拡大できるか、契約店舗は全体の1%」によると、「楽天スーパーロジの対象になるのは、約4万店のなかで自社物流を持っていない上位数千社」(楽天物流:恵谷洋代表取締役社長)とのこと。さらに記事は、「楽天スーパーロジでは、他社サイトからの注文物流まで引き受けている」と続きます。

 

ここで、(僕の推論を含め)ふたつの疑問が生じます。

  1. 「売上の10%前後が倉庫賃料というのは無理がある」というが、楽天物流側の説明によれば、ターゲットは売上上位の会社。もっと販売ボリューム、売上があるので、推定400万以上の倉庫賃料は、十分まかなえるとも考えられないか?
  2. しかし、年間売上4000万円を大きく超える店舗で、倉庫坪数が(柏センター閉鎖後)平均90坪弱というのは、ビジネス、運用の両面から無理があるようにも思える。

 

結論から言えば、このふたつの疑問、矛盾が、今回の楽天物流の親会社への吸収合併の背景でしょう。

 

前述1.について言えば、これは倉庫賃料だけから考えた推論であり、実際には発送費用や、梱包などの物流加工費用もプラスオンされる。平均4000万円の売上を上げる楽天出店店舗の中でも、「楽天スーパーロジ」を利用できるのは、売上のかなり高い店舗でないと無理と思われます。

ところがそう考えると、1店舗あたりの平均坪数が90坪というのはますます無理が生じます。まして、「楽天スーパーロジでは、他社サイトからの注文物流まで引き受けている」となれば、なおのことです。

 

そのコストの高さから、「楽天スーパーロジ」はそれなりの売上のあるネット店舗さんじゃないと相手にできないビジネスモデルなのだと思います。

そして、そのネット店舗さんは、90坪程度の倉庫スペースで運用できる商品になってしまっている。おそらく、倉庫90坪でまかなえるネット店舗さんとは、化粧品、健康食品、宝飾類、小型のPC機器や、家電製品などに限られることでしょう。

前述の記事で、「楽天スーパーロジの契約数はまだ出店者の1%」というのも、営業スピードが遅いというよりも、相手を選ぶビジネスモデルになっていることが主因ではないでしょうか。

 

ビジネスモデル構築の過程において、計算違いをしたか。

ある限られたターゲット層しか利用ができないビジネスモデル「楽天スーパロジ」は、楽天物流単体では回復させることができないと判断されたのでしょう。

債務超過の原因は、「インフラとシステムへの先行投資」(※前号のBlog参照)と言っているので、システムにも採算を超えた投資をしてしまったのでしょうね。

 

現状では、楽天物流の吸収合併は「敗退」だと考えます。

ビジネスモデルそのものに無理があるものと考えられるからです。

 

たぶん、逆だと思うんですけどね。

楽天物流は、売上の高い上位店舗をターゲットにした。ただ、そういったネット店舗はそれなりに物流業務に関してもノウハウがあり、アウトソーシングを受けるには楽天物流側も相当の準備と対応力を用意する必要があった。

仮に、売上の低い店舗が年十数万円程度で物流業務をアウトソーシングするサービスを設けたら、楽天モール4万2千店舗のうちの、数十%がビジネスターゲットになったのではないでしょうか。(実際にそのようなサービスで成功している物流会社は存在します)

 

ネット店舗の強みのひとつは、Web2.0で言うところの「ロングテール」です。

ネット通販の優たる楽天が、ロングテールを軽視したビジネスモデルを選択し、失敗した(と断言するのは失礼かな?)というのは皮肉ですね。

 

前号Blogで書いた「ヤマト運輸の運賃値上げ」は確かにとどめだったかもしれない。

でも、ある意味その程度のインパクトでとどめを刺されるくらい、楽天物流のビジネスモデルは脆弱なものであったとも言えるのではないでしょうか。

 

個人的には、ぜひここらか大きく舵取りを変更して、再度「楽天物流復活!」なんてことになるのを期待しているのですが。

楽天さん、頑張ってくださいね!


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