ドライバーの怪我は誰の責任なのか?

20数年前の今日(4月1日)、僕は頭部に大きな怪我を負いました。右前頭部を11針縫う大怪我です。

当時、僕は引越屋のドライバーでした。

 

今回は、ちょっと昔話にお付き合いください。

 

 

年度末である3月。

どんなお仕事も、皆忙しくされていることと思いますが、僕が当時勤めていた引越屋も同様。

 

3月に入り仕事が徐々に忙しくなってきて、子どもたちが春休みに入る20日過ぎから本格的な繁忙期に入ります。3月最終の週末をピークに、4月に入るとやや仕事が落ち着いてきて、新学期の開始とともに、平常運転に戻る。

きっと、今でも引越屋の繁忙期は同じようなイメージかと思います。

 

当時の詳細は定かではありませんが、とにかく忙しく、またひと月以上休みが取れていなかったように記憶しています。

そして、まずひとつ目の事故を僕は起こしてしまいます。

 

3月31日、僕は4t車で茨城県方面に1件目の引っ越しを完了し、都内方面に戻るところでした。

携帯電話など無い時代。

業務無線のエリア外であったため、高速インターチェンジ、料金所前にある公衆電話で会社に業務連絡を入れ、出発しようとした時...

 

ただ直線にバックをして、ガードレールにトラックのお尻をぶつけるという物損事故を起こしました。

当時、クルマにバックモニターなどはありませんでしたが、それでもクルマをぶつけるような状況ではありませんでした。

 

乗り慣れているはずの4t車の車両感覚が、蓄積した疲れのため麻痺していたとしか思えません。

自分自身、とてもとてもショックでした。

 

2件目に向かう前に事務所に寄った僕は、配車担当であった係長に、2件目の仕事を他に振ってもらい、半日だけ休ませて欲しいとお願いをしました。

正常な状態で仕事を続けるのは無理だと考えた...、というよりもむしろ自分自身で怖かったからです。

 

僕はそれなりに運転技量には自信を持っていました。

 

「ただバックしてクルマをぶつける」

そんな事故など、我ながら信じがたいことでした。

そこまで疲労がたまっている状態で、仕事をする、トラックを運転するのが怖かったからです。

 

休みを求めた僕に、係長は怒りをぶつけてきました。

疲れているのはお前だけではない、皆が疲れている、リーダーであるお前が弱音を吐くなんて、恥ずかしくないのかと...

 

そう言われることは予測していたものの、面と向かって言われると、それ以上言葉を継ぐこともできず、僕はその後2件仕事をこなしました。

 

 

そして翌日の4月1日。

朝礼で前日にクルマをぶつけたことを皆の前で報告し、今一度気持ちを引き締め直すようにと、自らの恥を晒して皆を叱咤した僕は、その後さらに醜態を重ねます。

 

事故は、午前便の積み込みを終え、卸地(引越先)にて発生しました。

 

お客様の新居は、2階建てアパートの2階。

階段を挟んで両脇に部屋があるタイプのアパートで、2階に上がる外階段は、360度回りこむ踊り場を経て2階につながっています。

 

疲労で注意散漫担っていた僕は、ダンボールを抱えお客様宅に駆け込もうとし、階段踊り場の鉄骨に頭を強打しました。

トラック荷台からダンボールを持ち、本当は少し迂回するように階段に向かわなければならないところを、そのまま直進してしまったんですね。アパートの構造上、ちょうど鉄骨が頭がぶつかりやすい位置にあったことも災いしました。

 

 

怪我を隠すために鉢巻にしたタオルが血で絞れるくらい、出血しつつもその現場を終了し(本当にお客様には申し訳なかったなぁ...)、事務所に帰庫。さすがに2件目に行けとは言われず、そのまま病院に行きました。

 

幸いなことに怪我は裂傷だけ。

頭骨骨折等はなく、頭部右側を11針縫うだけで済みました。

 

 

その後のことです。

所長から、労災にしてくれるなと頼み込まれ承諾した自分。

治療費の実費は貰ったものの、通院は有給休暇を取って通いました。

 

なんら、プラスアルファの手当等はありませんでした。

きっと、あの所長やら主任やらは、本社にも報告していなかったんでしょうから、手当なんてあるわけもないですね。

 

 

怪我をした自分を恥じる気持ち。

会社に迷惑をかけたという自責の念。

 

労災にもせず、会社にとって都合の良い判断に従った自分には、このような気持ちがありましたし、当時会社側もそういった僕の気持ちを上手く利用したと、今になってからは分かります。

当時は分かりませんでしたけどね。

 

 

誤解を恐れずに言えば、ドライバーという職は、視野が狭くなる傾向がどうしてもあります。

日々業務中の大半をひとりで過ごしているため、どうしても考え方は浅く狭くなりがちです。

一方で、ドライバーは極めて仲間意識が強くなる職業です。

ドライバー仲間を大切にし、迷惑をかけることを嫌います。時として、それは正当な権利を主張することも「仲間に迷惑をかける」ことから躊躇させてしまうくらい、強く意識されます。

 

引越ドライバーはひとりで仕事をすることはほとんどありませんが、その分チーム意識や仲間意識はより強くなるかもしれませんね。特に、当時の僕は、若くしてサル山のボス的ポジションにいたため、仲間と会社に迷惑をかけてしまったという意識が強く働いたのかもしれません。

 

今でもよく覚えています。

頭から出血したまま事務所に入った僕に、まず事務の女の子が駆け寄ってきて、椅子に座らされ、血を拭ってくれました。その僕から目をそらすように、係長が部屋を出て、所長室に向かうさまを不思議に感じたこと。

 

「気まずいだろうけど...、迷惑をかけたのは自分なのになぁ....」

 

結局、係長は僕に謝罪することはありませんでした。

 

 

「体調管理は自己責任」という考え方があります。

繁忙期を迎える前に、「忙しかろうと体調管理をきちんと行い、仕事に影響を出さないのがドライバーの責務である」と叱咤する運送会社を、僕は何社も見てきました。


言っていることは基本正しいのですが、それは程度があるということ。

そのことは、会社も社員も、そしてもちろんドライバーも自覚すべきです。

 

はっきりと言いますが、体調の自己管理を可能とする枠を超える負荷をドライバーに強いる運送会社は、まごうことなきブラックです。

そして、そのような運送会社に勤めるドライバーさんは、真剣に転職を考えた方がいい。

 

 

「とりあえず、怪我をしたのが自分でよかった...」

 

 

これは、僕が怪我のあと、落ち着いてから思ったこと。

 

会社に消耗させられ、くたくたのボロ雑巾のようになって、それで人身事故を起こす。

場合によっては、人を殺してしまう。

その責任を負い、そして自身も重たすぎる十字架を負ってしまうのは、ドライバーさん、あなた自身なのです。

 


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