横浜にある、「旧日東倉庫の解体」が話題になっています。
今回は、この「旧日東倉庫の解体」をレポートしつつ、物流不動産、特に古い倉庫のリニューアルとイノベーション活用について考えてみたいと思います。
そもそも、旧日東倉庫とはなんなのか?
また、なぜ旧日東倉庫の解体が話題になっているのか、それを簡単にご紹介しましょう。
ここで言う「旧日東倉庫」とは、正確には「旧日東倉庫日本大通倉庫」のことです。「倉庫」が二回続くので分かりにくいのですが、日東倉庫という会社が作った日本橋大通倉庫という意味ですね。
同倉庫は、みなとみらい線:日本大通り駅と横浜スタジアムの間にあります。
まさに、横浜の中心地に位置しています。
同倉庫が建築されたのが、1910(明治43)年。横浜最古の倉庫であり、観光スポットとして人気の横浜赤レンガ倉庫よりもさらに古いそうです。関東大震災にも同倉庫は耐え抜き、倉庫内に保管され、震災を免れた生糸の在庫が、震災被害に苦しんだ国家財政を救い、復興の礎になった、という逸話もあるそうです。
今回の一件は、同倉庫の解体が発表されたこときっかけに、同倉庫の価値が広く再認識され、反対運動が起こったことにより注目されるようになりました。
同倉庫の価値と、今回の経緯は、下記リンクに詳しくレポートされています。
- 解体が取りざたされている横浜最古の倉庫「旧日東倉庫」の今後はどうなる?
前編 http://hamarepo.com/story.php?story_id=3237
後編 http://hamarepo.com/story.php?story_id=3263
ここからは、実際に僕が現地を訪れ、撮影した画像とともに、同倉庫をご紹介します。
現地を訪問したのは2014年9月初頭のことなので、現状とは異なる可能性があることをご容赦ください。
この画像は、横浜スタジアムから日本大通り駅、開港資料館を結ぶ大通りから撮影したもの。地上3階/地下1階の構造だそうですが、外見から判ずるに、天井は低そうですね。
これが表側からの姿。
深緑の門扉が印象的です。
写真だとあまりわからないですが、実際に見るとかなり建物が傷んでいる様子が見て取れます。
ちなみに手前に止まっているトラックは、道路工事のための車両であって、旧日東倉庫の解体とは関係がありません。
これは倉庫裏側の様子。
時間貸し駐車場があり、比較的近くまでアプローチすることが可能です。
建物、壁面の痛みは表側の比ではありません。相当傷んでますね。
ところで、表側と裏側でレンガの色が違うのはなぜなんでしょう?
旧日東倉庫をこの目で実際に見た印象。
前述の記事やらネットで集めた情報以上に、建物自体は傷んでいる印象を受けました。
もっとあけすけに言ってしまえば、正直ボロいです。
建物の規模(スペック)から言っても、倉庫としてのビジネス上の価値はゼロでしょう。
歴史の深さゆえの趣きが建物にあるかといえば、もともと倉庫なわけですから、華美な装飾があるわけでもないし。建物自体の損傷の激しさもあり、建物そのものの魅力も、僕は感じられませんでした。
同倉庫が実際に使われていたのは、1980年頃まで。
30年以上、放置されていたことになります。使われなくなった建物は、やはりこのように生気を失ってしまうものなんでしょうか...
これは、僕の私見で旧日東倉庫を評価したレーダーチャート。
- 学術的価値 5
- 歴史的価値 5
- 立地条件 4
- 倉庫としての実用性 1
- ビジネス活用する上での汎用性 1
- 建物の見栄え/デザイン性 2
厳しいですかね?
率直、ここらへんが妥当なところじゃないかと思います。
さて。
「物流不動産」というビジネスがあります。
物流不動産とは、主に倉庫を対象に行うビジネス全般のことを指します。狭義では、物流倉庫を対象とした不動産取引、仲介ビジネスを指しますが、現在では物流倉庫をチャネルのひとつとして、付帯ビジネスを行うことも含まれます。
例えば物流倉庫としての活用は難しくなった古い、もしくはスペックの低い倉庫を、レストランだったり商業施設として再生させるビジネスも、物流不動産ビジネスに含まれるわけです。
同倉庫の解体に反対する人たちのほとんどは、同倉庫を、物流倉庫としてビジネス活用する道は主張していません。建物の純粋保管ないし、倉庫業以外の利活用を訴えるケースが主流とお見受けします。つまり、物流不動産ビジネスということですね。
前述のレーダーチャートのとおり、同倉庫の価値はとてもちぐはぐとした極端なものです。 同倉庫の設立から104年間、同倉庫を所有していたのは三井物産でした。と言っても、三井物産は最近30年も同倉庫を放置していたわけですが。
天下の三井物産が、横浜の一等地にある同倉庫を30年も放置してきたのは、同倉庫の歴史的学術的な価値の高さと、その実用性の低さ故に、扱いあぐねていたからではないでしょうか。
古い倉庫をリノベーションし、新たな用途を与え再生する。
言葉で言うのは簡単ですが、これを実現するためにはコンテンツが必要です。つまり、レストランだったり商業施設だったりという、新たな用途のアイディアのことであり、このアイディアには必ず「なぜ倉庫を利用するのか?」という根拠が必要になります。
極端な話ですが。
仮に、同倉庫にマクドナルドがテナントとして入居するとします。その場合、例えばマクドナルド"旧日東倉庫"店には、わざわざ古い倉庫に店を構えるだけの理由、メリット、費用対効果が求められます。その理由を生み、メリットを創生し、費用対効果を稼ぎだすものが、コンテンツです。もっと言えば、利用価値の低下した古い倉庫を、別のビジネス用途にリノベーションする接着剤がコンテンツであり、物流不動産ビジネスの肝のひとつでしょう。
一例を挙げます。
TABLOID(タブロイド)
TABLOIDは、ゆりかもめ日の出駅下車すぐの場所にある、旧産経新聞社の印刷工場をオフィスであり、イベントスペースとしてリノベーションした物件です。
下記の記事がその経緯に詳しいかと思います。
物流倉庫の例ではないことはご勘弁を。
TABLOIDの場合、もともと立地条件が良かったことに加え、本コンセプトを仕掛けたリノベーション屋さんが建物の個性にあった分かりやすいコンセプトを創りあげたこと。そして、そのコンセプトに沿ったイベントを実施する、店子さんをマッチングさせたことにあるのではないでしょうか。
現在、プロロジス、GLP、三井不動産、大和ハウスなどが、次々と大型物流施設を立ち上げています。ユニクロ(ファーストリテイリング)が大和ハウスと組んで、即日配送を目的とした約11万2400平方メートルの床面積を持つ、巨大な物流センターの立ち上げを発表したのはつい先日のこと。ユニクロの例は極端にしても、先数年間、大型物流倉庫が開設される流れは続くでしょう。
その反面。
利便性にかける小~中規模倉庫の経営は苦しくなっていくことが予想されます。
物流倉庫としての活用を考えることは第一義ですが、リノベーションの道を探さざるをえないケースも間々発生するでしょう。
「立地さえ良ければ、不動産はどうにかなるもんだ」
旧日東倉庫日本大通倉庫の例は、そんな甘い考えに対する警鐘なのかもしれません。
物流倉庫に限った話ではないと思いますが。
※2014/10/31 加筆
まとめかたに、我ながら奥歯にものが挟まったような書き方をしてしまったので、加筆します。
三井物産が、旧日東倉庫日本大通り倉庫を30年も放置したのは、なぜなんでしょうね。
行政から、同倉庫の保管や運用に関し、支援を申し出たこともあったそうですが、三井物産側は受け入れなかったそうです。
おそらく、三井物産は同倉庫の価値や、立地条件(もっと言えば建物ではなく、土地の価値。土地の評価額)を投資対象として勘案し、最適な投資時期を30年間図っていなのではないかと。
しかし、残念ながら三井物産の腹づもりに見合うような評価が得られることはなく、同倉庫をケン・コーポレーションに売却したものと考えます。
一方。
同倉庫の保管を訴える方々の主張は、どこか物足りなさを感じます。
歴史的な価値や、学術的な価値を声高にアピールするのは良いです。でも、先のレーダーチャートの評点が低い部分、つまり実用性やビジネス面での価値をきちんと検討されていない、もしくはその価値を創出/創造する試みに欠けているように感じてしまいます。
単純な話、ケン・コーポレーションが三井物産から同倉庫を買い取った以上の価値を提案できれば、ケン・コーポレーション側だって、同倉庫の建て壊し計画を見直すのではないでしょうか。
「別のビジネス用途にリノベーションする接着剤がコンテンツである」
ここでいうコンテンツとは、アイディアと、それを実現するための実行計画と、そしてアイディアを実行する人のことを指します。
同倉庫の価値は、(繰り返しになりますが)とてもちぐはぐした極端なものです。そのちぐはぐとした価値の一部だけを取り上げ、お互いに議論しても平行線でしょう。エモーショナルな言い方になりますが、同倉庫のことを本当に考えるのであれば、もっと俯瞰的な目線で、同倉庫の行末を議論すべきではないかと心底思います。