パーソナルデータが利用されることの危険性を考える

先日、政府がパーソナルデータの利用方法に関連する個人情報保護法の改正に向けた大綱案をまとめました。大綱案には、「本人同意を得なくても第三者提供や目的外利用ができる『個人特定性低減データ』」という、ちょっと聞き慣れない表現があります。

 

『同意がなくても個人情報が利用されちゃうの!?!?』

ドキッとしてしまいますが...

 

今回は、最近話題になりつつある「パーソナルデータ」ですが、これが利用される危険性について、まとめたいと思います。

「パーソナルデータ」とは、その名のとおり、個人が日々生活を行っていく上で生み出されていくデータのことです。

例えば、買い物をすれば、何処で、どんなものを、どれくらい購入したのか。

週末に遊びに行けば、どのような場所で、どのようなアクティビティを楽しみ、それがどのくらいの頻度で行われるのか。

我々が生活行動をすれば、そういったデータが常に生み出されていきます。

 

「個人情報」と異なるのは、氏名、住所、電話番号といった機密性の高い情報だけでなく、パーソナルデータには、例えばその人の購入した品物や、趣味嗜好、健康状態、行動範囲(位置情報)といった、比較的機密性の低い情報も含まれること。

 

膨大なデータを扱うIT技術は近年、データマイニングからビッグデータへと飛躍的な技術進化を遂げています。ビッグデータ活用技術の進化により、こういった人の生活行動から生み出されるデータの利活用が進み、それにともなってその活用や流通といった取り扱いに関する法律等の利用環境整備が急ピッチで進められているわけです。

 

※関連情報

総務省 「パーソナルデータの利用・流通に関する研究会」報告書の公表

http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000071.html

 

ニュース:「利用目的の変更に「実効的な規律」、パーソナルデータ法改正大綱案を了承」(日経コンピューター)

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20140619/565482/

 

パーソナルデータはさまざまな可能性を持っています。

例えば、店舗運営においては、パーソナルデータをマーケティングに活用、店舗施策に反映し、さらなる売上の向上が見込めるでしょう。

メーカーはパーソナルデータによってそれまで不可視だった購買傾向を分析できるようになり、精度の高い生産計画を立案、商品の売れ残りをなくすことができるかもしれません。

鉄道会社がパーソナルデータに含まれる人の移動位置情報を分析することで、通勤ラッシュを軽減し、より効率的なダイヤグラムを組むことも可能になるでしょう。

 

ここで言う、利活用されるパーソナルデータは、「個人特定性低減データ」と呼ばれ、個人を直接特定できる氏名、住所、電話番号、勤務先情報などは含まれません。

 

「個人を特定できない情報、データであれば、問題ないんじゃないの。生活が便利になるのであればOK! どんどん活用してよ!」

そう思う人もいるかもしれませんね。

 

以下、筆者自身の例を挙げて、考えてみましょう。

 

  • 43歳男性
  • 東京都練馬区在住
  • 間違いなくメタボ f^^;)
  • コンビニエンスストアを、週4~6回利用する
  • 仕事上、常に7インチのタブレットを持ち歩いている
  • 趣味はサイクリング

 

この情報を基に、統計データを重ねると以下のようになります。

 

 

パーソナルデータの考え方

ちなみに、人口、世帯数のデータは、国勢調査を参照。

メタボリックシンドロームのデータは、厚生労働省HP。

練馬区のデータは、練馬区役所HPから。

タブレットの世帯保有率は、総務省の情報通信白書より。

スポーツサイクルの世帯保有率は、自転車産業振興協会から。

コンビニの利用頻度データは、市井のリサーチ会社の公開統計データを参考にさせてもらいました。

 

前述のように、言葉で列記すると曖昧な印象も受けますが、このように実際の数値を重ねあわせて図式化すると、ずいぶん絞りこまれてしまう印象がありませんか?また、個人のパーソナリティを明らかにするという点では、住所や電話番号が知られることよりも、もっと丸裸にされている印象も受けます。

 

本例は、あくまで現時点で公開されている統計データを元に重ねあわせ(抽出)を行いました。つまり情報の深度は決して深くないということです。今回テーマのパーソナルデータは、さらに詳しく深度の深い情報を持っています。

 

パーソナルデータの利活用が進めば、個人の特定を容易にするばかりか、趣味嗜好、性格、生活情報などのパーソナリティまで明らかにすることができる、これは明々白々であると考えます。

 

パーソナルデータが利用されることの危険性は、決して対岸の火事ではなく、すべての人にとって、等しく極めて近しい課題なのです。

 

 

 

 

以下は私見です。

 

実は、僕自身はパーソナルデータの利活用に反対するつもりはありません。「これだけ長々とパーソナルデータ利活用の危険性を訴えておいて!?」と思われるかもしれませんが。

 

我々は、すでにパーソナルデータをあちこちで散乱させてしまっています。最たる例が、SNSです。

例えば、Facebook。自身の顔写真を公開し、また趣味や訪問先を明らかにしてしまっています。勤務先を公開している人も(自分を含め)多数いるでしょうし、初対面の相手でも、Facebookのタイムラインを過去に遡って閲覧すれば、その人となりはおおよそつかむことが可能です。

 

コンビニでは、お客さんの購入商品とともに、性別、年齢等がPOSレジに記録されます。街には監視カメラが増加し、量販店で発行されるポイントカードは、カードの持ち主の購入履歴をすべて記録しています。Amazonへアクセスすれば、過去の購入履歴、閲覧履歴から、あなたへのおすすめ商品が表示されます。スマートフォンには位置情報が記録され、それは日々AppleやらGoogleへと蓄積されていきます。

 

とうの昔にパーソナルデータの利活用は始まっていて、そしてパーソナルデータの収集は加速するばかりです。

 

抗うことのできない(控えめに言っても"難しい")大きな流れに逆らうことを選ぶのではなく、関連法規を含めた適正利用の環境整備を進めることを優先すべきである。何よりも、パーソナルデータの利活用は、我々の生活をよりよいものにする可能性を大きく秘めているのだから。

これが、僕の考えです。

 

なお、"「パーソナルデータの利用・流通に関する研究会」報告書の公表"(総務省)には、以下の様な記述があります。

 

『特に、パーソナルデータが、二次利用、三次利用されるような場合においては、当初は特定の個人との結びつきが弱かったとしても、多くの情報が集積され、分析されることにより、個人識別性が生じるなど特定の個人との結びつきが強まる可能性があり、判断が困難な問題が生じる。このような場合には、二次利用者、三次利用者等が、単独でパーソナルデータの本人の同意を取得すること等は困難であることから、パーソナルデータの利活用に係る仕組み全体で適正な取扱いを確保する必要がある。 』

※報告書中 21ページ

 

『パーソナルデータの利活用に係る仕組み全体で適正な取扱いを確保』されていくかどうか、それは常に注視していく必要があるかと思いますけどね。

 

 長文になりました。

以上、僕なりにパーソナルデータの危険性について、まとめてみました。

 

 


※各種データの出典

 


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